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以下それ。
ライトさんがホープに『Trick or treat』と言うと、ちょっと困った顔をして「はい、甘いの」と唇にキスをされます。shindanmaker.com/285458
小さな悪戯~1421~
きっかけは、ヴァニラの言葉からだった。
「ルシだって楽しまなきゃ。ね、ハロウィンしよっ!」
グラン=パルスでは秋と冬を隔てる大事な節目の日でもあるらしい。気候が調整されたコクーンではただのお祭り騒ぎだったが、とライトニングは少し懐かしくかつてを思い返した。
「どうやってやるんだ、通販でもしないとお菓子なんて手に入らないぞ」
それでもこの歳になってハロウィンはちょっと、と思い留まらせようとしたのだがあっさり流される。
「果物とかはどうですか?」
それもホープに。先程まで「ハロウィンなんてプライマリーの時にやったけどあれは子供のすること」なんて言っていたのだが。
「おっ、乗ってきたねっ」
「モンスターが落とすものでもいいんじゃねーか?」
「忌まわしい骨とかは父ちゃん勘弁だぞ」
「よーし、じゃ、決まりだねっ!」
「おうよ。すんげえ悪戯考えといてやるからな」
「ファングさんには負けません!」
「え、や、やるのか……」
呆然としているうちに話は決まってしまったのだった。
やれやれ、とライトニングは溜息を吐いた。朝食後、言い出し人のヴァニラの号令でこの渓谷に散った一行だったが、手頃な果物でも、と探し歩いているうちに早速ファングと出会った。
「よおライト。Trick or treat?」
嬉しそうに言ってきたが、彼女は明らかに臨戦態勢で結局そのまま手合せになってしまった。思い切り遣り合える相手として楽しめたのだが。
「ホープには手加減してやれよ」
「どうだか。あいつの魔法は発動速えぞ。牽制食らって動けねえうちにやられっちまうかもな」
「そうでもないだろ」
そんな会話を交わして別れた後、今度はヴァニラと出会う。お菓子に代わるものをまだ見つけてなくて仕方なく「悪戯」されたが、ごわごわウールで作った怪しげな付け髭を付けられ、
「今日一日外しちゃダメだよ」
と言われてしまった。
が、次に会ったスノウが
「義姉さん!Trick o……ぶはっ!」
と噴出したため、容赦なく攻撃を叩き込んでいたらどこかへ吹っ飛んでしまった。
げっそりとしながら谷を下ると、サッズがのんびり焚火していた。
「よお、姉ちゃん」
「どうした、歩かないのか」
のどかな様子に近寄ると、「まあのんびりしていけや」とコーヒーのような飲み物を出された。
「まあ、厳密にはコーヒーじゃねえんだけどな。そこの、ほれ」
とサッズは土手の上にたくさん並んで咲いている黄色い花を指し示した。
「あれの根っこをよく焙って細かく挽くとコーヒーみたいな味になるって聞いたんでやってみたのさ」
「へえ」
コクーンで飲んでいたそれとは味は違うが、これはこれでおいしい、とライトニングは思った。
「ファングとヴァニラからは好評だったぜ。グラン=パルスの味がするってな。スノウは何かあったのか?随分ボロボロだったが」
「……ヴァニラにやられた悪戯を笑われた」
「姉ちゃんにもやられたのかよ。ファングには一方的にボコられたって言ってたが」
「ファングにもやられたのか」
「あいつも相手見てやってるみたいだがな。ホープは変なヒゲとぶっとい眉毛で出てきたから手加減したんだろ」
「眉はファングかな。ヒゲはヴァニラだが」
「中々落ちない染料らしいぜ」
正直、手合せでよかったかも知れない、とライトニングはこっそり思った。
「ホープはどこへ行った?」
残っているのはホープだけである。
「そこの沢を登っていったぞ」
「こんな茶番は早く終わらせないとな」
「おうよ。早く戻ってこい。ヴァニラとホープが何かうまそうなもの持ってきてくれたから、料理しておいてやるよ」
「すまないな。ちょっと行ってくる」
サッズに何かうまそうなもの、ということはホープはちゃんとお菓子代わりの何かを持っているのだと判断して示された小さな沢を登る。途中、眉のことを思い出してコクーンの通販でちょっとしたものを手に入れておいた。
「あっ、ライトさん……」
水の湧き出る場所でホープは一生懸命眉の悪戯を消そうとしていた。が、その努力も空しく黒々と極太の眉が描かれたままだった。
「お菓子の代わりだ。これを使え」
とライトニングは先程手に入れた舞台用メイク落としを差し出した。
「ありがとうございます!」
試行錯誤の末、染料はきれいに落ちてさっぱりしたホープだったが、さて、と物言いたげな顔になった。
「どうした?」
「あの、ライトさんはTrick or treatしてくれないんですか?」
何を言い出すかと思えば、とライトニングは難しい顔をした。お菓子をあげるのはこちらだろうに、と思ったが、もしかしたら何かいいものを見つけたので渡したいと思ってくれたのかもしれない、と思い直す。
「ん?……ああ。じゃ、Trick or treat?」
「えっと、じゃ、今、甘いのあげますんで目を瞑っててください」
何だろう?と思いつつも目を閉じて少し身を屈めてやる。
「いいぞ」
「……じゃあ、ライトさん。はい、甘いの」
変な間があったような?と思う間もなく、唇に仄かに温かい何かが触れる。
「?!」
何事かと目を開くと、ホープが申し訳なさそうな顔をしてライトニングを見上げていた。
「すみません、ライトさん。僕、飴を持ってたはずなんですけど、今見たらどこかに落としちゃったみたいなんです。だから、その……」
「いっ、いいっ。きっ、気にするな」
動転のあまり声が裏返ったが、それを気にする余裕はない。
「染料は落ちたんだな。戻るぞ」
「あっ、はい!」
これは悪戯。それも子供の。そう心に言い聞かせながら斜面を大股で下っていく彼女の後をホープが追う。いつもなら時々振り返ってちゃんと付いてきているか確認するのだが、今のライトニングはそれどころではなかった。
だから、ライトニングは気付かなかった。後ろ手に握り締めたホープの手の中に飴があったことに。